第2回:不便さがもたらす恩恵

ERP導入についての誤解があります。システムを導入したら業務が楽になるとか、便利になるということは、ほぼありません。特に現場ユーザの方たちにとって、業務は確実に煩雑になります。

「なんだ」と思われる方も多いでしょうが、ERP導入の理由は現場ユーザが楽になるということを目的にはしていないからです。むしろ入力タイミングでなるべくたくさんの情報を登録するような動きになります。これは現場ユーザにとっては迷惑な話です。

ですが、会社の状況がほぼリアルタイムで判断できるという目的を達成するためには、仕方のないことなのです。

業務システムの歴史は、手書き業務をシステムで置き換えることから始まりました。それがどんどん進化し、IT環境もWEB、クラウド、スマホ・タブレットなど目まぐるしく変わってきました。正に日進月歩です。

対して、システム投資がどれくらい利益貢献しているのか?という点については疑問が残るところです。手書き時代の倍も効率が上がったかといえば、そんな会社は見当たりそうもありません。

ERPは経営陣になるべく正確な情報を提供し、経営のかじ取りに必要なデータを提供するためのツールです。決して現場ユーザの「ご機嫌」を取るためのツールではないことを理解しておかないと、道を誤ることになります。

ここで、ERPの代名詞であるSAPについて触れておきましょう。SAPでは融通というものが全く利きません、たとえば伝票を入れ間違えてしまったとしましょう。この場合、関連するすべての伝票を取り消して、その後で原因となった伝票を削除するなり、訂正するなりする必要があります。すべて入れ直しということです。

なんて融通が利かないと思われるでしょうが、SAPでは当然のことです。この不便さがSAPの精度を守っているのです。不便さが精密さ担保している典型と言えるでしょう。

ERPは高いので、大企業だから導入できるのだと思われている方も多いでしょうが、安かったら導入できるのか?という点については、よくよく吟味してみる必要があるでしょう。